「ねぇ、一条くん」

「ん?」

「一条くんって大学、どこに決まったの?」



わたしが置いた紙がコピー機に吸いこまれていくところを見つめながら、彼に声をかける。

どきどきしながら返事を待っていると、簡単に答えが返ってきた。



「俺は大阪のK大」

「おお、さか……?」

「俺は地元を出て、ひとり暮らしをするよ」



目の前が、手にしていた紙が風に煽られて視界いっぱいに広がったかのように、白くなる。

色を失った世界にしばらくして色彩が戻ると同時に、見開いたままの瞳を彼に向ける。



一条くんも、わたしを見ていた。

感情が読めない黒い瞳は、こんな時でさえ嫌になるほど美しい。



うん。

そっか。



心の中で呟いた言葉を声にする。



「そっかぁ……」



君とはもう、会えなくなるんだ。



わかったつもりでいた。

文芸部という繋がりを失えば、わたしたちがこうして顔を突き合わすことなんてないって。



それでも、道の端で出会うような、そんな小さな偶然の可能性さえないなんて。