「あ! ごめんね菜乃ちゃん、お会計待ってたかな?」


またしてもシャボン玉のようにふわふわと妄想を浮かべていると、おじさんの声でパチンとその映像が弾けて消えた。

はっとしてふたりの方に目を向けると、四つの目が私を凝視している。


「あっ、いえ全然! お話が終わってからで……」

「大丈夫だよ、もう済んだから。じゃあ、レジお願いしていいかい?」


おじさんに頼まれた“ソウくん”は、「はい」と返事をしてレジの方に向かってきた。

うわぁ、ついに初接近!


……なんてドキドキするけれど、少しだけ虚しい気分にもなる。

だって、私は自他共に認めるメガネクラ。

こんな自分に、あんな妄想みたいなことが起こるはずがないと、本当は十分わかっているから。


それでも、イケメンと接する機会なんてないから、やっぱりどうしても緊張はしてしまう。


「すみません、お待たせしました」


丁寧な挨拶をする彼の顔を直視出来ず、俯いたまま参考書を渡そうとして、はたと気付いた。

こ、こんなオタクっぽい参考書を渡すの、恥ずかしすぎるじゃんー!!