禁断のプロポーズ

「会長は、俺の嫁にするために、未咲を採用したらしいぞ」
とバラす智久に、夏目が振り返った。

「まあ、まだ時間はある。
 熟考してくれ、未咲」
と言って、行こうとする智久を、夏目が止めようとする。

「待て。
 お前は未咲のーー」

 そこで言葉を止めた夏目に、智久は振り返り、笑う。

「例え、真実がどうだろうと関係ないんだろう?

 話さなければ、誰にもわからないことなら、その真実はないのと同じだ」

 そう言い置いて行ってしまう。

「なに?」
と見上げたが、夏目は、いや、と言うだけだった。

「志貴島さん」
とふっくらとした男が呼びかけてきた。

 人の良さそうな顔をしていて、会長とはあまり似ていない。

 智久の実父である、社長だ。

 夏目は自分の兄に当たる彼に軽く頭を下げ、その場を離れた。

 まあ、隠し子だからな。

 ちょっと居づらいか、と思ったが、社長は優しい笑みを湛えたまま、夏目に頭を下げ返していた。

「志貴島さんは、お母さんそっくりだね。

 志帆……おねえさんよりも」
と母のことを語り出す。

 感慨深そうに。

 そういえば、克己の言っていたことが気になっていたのだが。

 母の愛した男性は本当は一人だったんじゃないかという話。