さっきのは、なにかの聞き違いだと思いたい。

 だが、智久はこちらをちらと見、
「お前、今、なかったことにしようとしただろう」
と言ってくる。

 さすが、長年一緒に居ただけのことはある。

 こちらの思考はお見通しのようだった。

 今、笑って誤魔化そうとしていることも。

 そのとき、ノックの音がした。

 智久が顎をしゃくって合図するので、未咲は、腰を浮かして、
「はい」
と返事をした。

 うるさそうな見舞客だったら、寝たふりをしようとしているのだろう。

 だが、
「失礼します」
と言ったのは、佐々木だった。

 手に洋菓子店の袋や花束や、果物カゴを持っている。

「言われた書類、持って参りました。

 それから見舞客は断りました。

 品物だけ預かって」

 さすが、と思っていると、智久が、
「剥くんだろ、林檎」
と言ってきた。

「ほんとだ。
 ありますね、今でも、果物カゴ」
と言うと、佐々木が、

「なんの話ですか?」
と訊いてきた。