「お前を二千万で買って縛りつけたことは謝らない。

 でも、ひとつだけ謝るよ。

 嫉妬にかられて、お前の姉さんを見捨てたことだけは。

 今、改めて話を聞いて、俺は薄情にも思ってしまったんだ。

 お前の方が生きていてくれてよかったと。

 だから、謝る」
と智久は言った。

 未咲は、はは……と力なく笑う。

「なに言ってるんですか。
 らしくないですよ」

 智久は先程まで強く自分の手を握っていた手を白いシーツの上に落として呟いた。

「女に好きだと言うのはたやすいが、結婚してくれと言うのは難しいな。

 人一人の人生を抱え込んで、責任を取るということだからな」

「意外と真面目ですね」
と言いながら、いや、普通、好きだって言うのもたやすくはないんだが、と思っていた。

「その辺、夏目の方が適当そうだぞ」
と横目に見て言う。

「あいつ、実はなにも考えてないだろう。

 本能のまま動いてるというか。

 まあ……だから、仕事の上でも強いんだが。

 計算して動いていない分、他の連中より、反応が速いからな」

 そんな話をしているときは、いつも通りの専務の顔をしていた。

 少し、安心する。