「お前、幾らだ」
あの雨の日、眼鏡をかけ、仕立てのよいスーツを着た、偉そうな男がそう訊いてきた。
「そこに立ってると、そうやって声をかけられるんだ。
特にお前のように、傘持って、雨宿りなんぞしてるとな」
と親切にも教えてくれる。
そこは、そういう目的を持つ女の人が立つ場所だったようだ。
普通にいつも歩いている明るい街中なのに。
知らなかったな、と思いながら、
「そうなんですか……」
と呟く。
考え事をしていたので、そのまま、そこから逃げるでもなく、ぼんやりしていると、男は溜息をつき、
「どうした?」
と訊いてきた。
「いえ。
『幾らだ』って。
せいぜい、二、三万ですよね」
とつい、呟くと、
「売りたいのか」
と訊いてくる。
いや、そんな莫迦な。
ちょうどお金のことを考えていたので、そう言ってしまっただけだ。
「お前なら、もうちょっと高く売れるぞ」
と言ってくるので、
「いえいえ。
ちょっとお金に困っていたので、言ってみただけですよ。
別に売る予定はありません」
「いえいえ。
ちょっとお金に困っていたので、言ってみただけですよ。
別に売る予定はありません」
それじゃ、と行こうとしたのだが、男が更に突っ込んで訊いてきたので、それに答える。



