「ありがとう」

「え……?」

「見ててくれて、ありがとう。
悠が見てくれてるって思ったから、あたしちゃんとできた!」



彼女の髪が僕の頬に落ちて、優しく撫でてくる。



「悠のおかげであたし、オーディション受かったよ!」



ちかちかと千菜さんの瞳の星がまたたく。



彼女が主役に選ばれたのは、彼女の努力の賜物だ。

想いの形だ。



僕はなにもできていない。

それでも、彼女に送りたかった主役の座を千菜さんが手にしていることが嬉しい。

たまらなく、嬉しいんだ。



僕なんかにも感謝できる君だから、────



「千菜さん」



呼びかけて、僕は体を起こす。

「ごめん、退(の)くね!」と言う彼女の腕を引いて、華奢な肩を包みこんで、唇は耳元に。



そう、僕は千菜さんを抱き締めた。



「え⁈ え⁈」



驚いている彼女の声が、距離の近さのせいで体の奥から響いているみたいだ。