誰だろう、慌ただしいな。

そんな風に思っていると、ガラリと扉が開く。



「悠ー!」



よく通る、聞き慣れた声。

ばっと顔を上げる。



ちょうど死角になっていた扉の方から駆けてきた彼女が、その勢いのままに僕の胸に飛びこんできた。



「うわぁあああっ」



手にしていた本が空中を舞い、ばさりと近くに落ちたんだろう。

だけど僕の目にはもう、馬乗りになっている彼女────千菜さんしか映らない。



床にぶつけた腰の痛みがかき消されるほど、心臓がうるさく騒いでいる。



「悠、さっきのオーディション覗いてたよね⁈」



ば、ばれてる……。



副顧問に見つかったところが見えていたのかな。

変なところを見せてしまった。



「最初から気づいてた。
なーんか視線感じるなって思ったら、悠がいるんだもん。
びっくりしたよー!」

「あの、ごめん」

「なんで謝るの?
あたしのこと、心配してくれてたんだよね」



心配というか、ただ純粋に見たかったんだ。

苦しいけど、恋を自覚して輝く君のことを。