あのあと、情けないことに僕はオーディションを覗いているところを副顧問の先生に遭遇して、追い出されてしまった。

機材のチェックにくるなんて、避けようがないよね。



それでも千菜さんの演技は全て見ることができたことは不幸中の幸いだったけど。



だから僕は今日中に発表される配役までは知ることができなかったんだけど、それでもどきどきして、そわそわして。

なんだか帰る気になれず、久しぶりに図書室に来ていた。



最近は千菜さんと教室にいてばかりだったけど、ここはなにも変わっていない。

古い本の香りも、カウンターに座る髪の長い地味な女子生徒も。

いつどんな時も僕を拒絶しない空間。



でも、もうそろそろ下校時刻だ。

本を棚に戻して、僕も学校を出ないといけない。



きい、とわずかに軋む音を耳にしながら元の棚へと近づいていると、廊下からバタバタと誰かの走る音。

静かな図書室にまで聞こえてくる。