音を立てないように扉を開けて、中に滑りこむ。

誰かのセリフが響いて聞こえてくる。



本来ならここは照明のために人がいるところだけど、今日はオーディションだけだからか誰もいない。

頭を柵や機材から頭を出しすぎないようにしつつ舞台を覗けば、大きな声で演技する部員。



許されないこと……侵入。

初めてした〝悪いこと〟に胸が騒いで、それでも後悔なんて少しもないんだ。



「ありがとうございました!」



舞台の上にいた部員が深く頭を下げて、お辞儀をする。

決められたセリフまで演り終えたらしかった。



「じゃあ次、金原」

「はい!」



すっと美しい動作で立ち上がり、千菜さんが舞台の上に立つ。

光を含んだ風が吹くように、彼女はとても綺麗だ。