会話の最中の金原さんと目が合うと、彼女はにっこりと笑って、



「藤田ーバイバーイ」



そう、手を振った。



「っ、」



僕はなにも応えずに背を向けて、廊下の角を足早にすり抜けた。



下足室で靴を履き替え、学校から出て、アスファルトを道をずんずん進む。



いじめというほどではない。

よくある、本人たちはさほど気に留めやしない、小さな出来事。



だけどされた側からすればいい気分にはならないし、面倒で最低で。

ただ黙って、唇を血が滲むほど噛み締めるような出来事のはずだったのに。



『やめなよ』



彼女は、金原さんは、そう言って止めて。



場の空気を変える発言をしても許される、いわゆる勝ち組という立場。

周りの目なんて気にしない強さ。

綺麗ごとを口にして、憎らしくてたまらない。



眩しすぎて、卑屈な僕が嫌になる。

だけど、



「ぅ、っく」



だけど本当は、とても嬉しかった。

涙が零れてしまうほど、嬉しかったんだ。



優しい人。

とても、心の綺麗な人。



君が妬ましくて、羨ましくて、悔しくて、憧れて────、



『バイバーイ』



気づけば、輝くように笑った顔に、恋をしていた。