「あたしに恋を教えて!」



その言葉に、本を選んでいた僕は目当てのものをばさりと落とした。



なにしろ、カウンターの図書委員を除くと僕しかいないような静かな図書室だ。

その音はやけに大きく響いた。



それほどの衝撃を与えてきた金原 千菜さんとは、中学2年生。

僕と同じ3組の女子生徒。



明るく元気。

表裏がなく、なんでも言葉にできる強い人だ。



言い方がきつくなることがあっても、素直な彼女はきちんと謝ることができるからだろう。

友だちが多い。



丸く大きな瞳はいつも好奇心旺盛で、輝いていて。

頭の上の横のあたりで束ねられている、わずかにくせのある髪は、動き回っても邪魔にならないよう肩に触れない程度の長さ。



そんなハツラツとした彼女と対極の僕。

黒縁眼鏡に長めの髪が表情を隠して、筋肉のないひょろひょろの体。

地味で、いつも教室の隅で本を読んでいる。



僕は千菜さんには不釣り合いだとわかっている。

似合わない、分不相応。



それでも、春からずっと彼女を目で追っていた。

────好きだから。