「憧れが……変わった?」



小さな彼女の呟き。

どくり、僕の心臓がやけに大きな音を立てた。

それと同時に、千菜さんの瞳の中の光が息をする。



そっか、そうだったんだ! と千菜さんのテンションがどんどん上がってくる。



「主人公は先輩への憧れが恋に変わったんだね!」



その言葉のあとには、『あたしのように』とでも続くのだろうか。



劇中の子たちを理解したがっていた千菜さん。

努力は実り、答えを手にした彼女は頬を紅潮させながら「嬉しい嬉しい!」と喜んでいるのに。



なのに僕は、哀しかった。

切なかった。



「うん、悠はやっぱりあたしの憧れだよ!
あたしにできないことができて、わからないことを教えてくれるもん!」



僕の手をぎゅっと握り締めて、千菜さんがひょこひょこと飛び跳ねる。



「ありがとね!
悠が応援してくれたから、あたし、恋がわかったよ!」



髪が揺れる。

伝わる千菜さんのぬくもりを、僕は、振り払った。



僕の名を呼ぶ、様子を伺うような千菜さんの声が耳に入るも、僕はなにもなかった風を装うことができない。

傷ついていないと自分を誤魔化すことが、できない。