「それでね、その時穂香がさ、階段で落ちそうになるくらい照れちゃって!」



放課後のいつもの練習のあと。

配役決めのオーディションをあと1週間に控えた今日。

だいぶ主人公の演技に慣れてきたこともあり、休憩と称して僕たちはおしゃべりに興じていた。



千菜さんの口にする話題にはよく出てくるから、少し前までそこまで知らなかった、穂香────市原さんのことにくわしくなってきそうだ。



身振り手振りを加えて楽しそうな千菜さんを見るだけで、胸がほわりと温かくなる。



「悠はあたしの話、いつも真剣に聞いてくれるよねー!」

「だってそれは礼儀だし。普通だよ」



なにより僕が君の話を真剣に聞くのは好意があるからだ。

たとえ一言だって聞き逃したくないからだ。



「それを普通って言える悠が素敵な人なんだよー」



思わぬところを褒められて、どんな表情をしたらいいかわからなくなる。