「えっと…連立方程式だっけ…?」
「ちげ、ここまず代入な」
「あっ…そっか……」
真剣な眼差しで机に向かう虹心。
そんな姿を眺めていると、
ついつい笑がこぼれそうになった。
俺が中学から勉強を頑張ってきたのは、
虹心や施設の子供たちに勉強を教えてやりたかったからだった。
親がいないことで、
引け目なんて追わせたくない。
俺たちにだって可能性があることを教えてやりたかった。
本当、虹心は頑張り屋だよ…。
心の中で呟く。
その時、机に置かれた虹心の携帯がブブっと震えた。
そのバイブ音に、
意識が一瞬にして現実へ戻ってきた。
「あ、明君からだ!」
シャーペンを机に投げて、
スマホを覗いて嬉しそうにそう言った。
その言葉に、弾かれるように顔を上げた。
明から……。
心臓の鼓動が速くなったのが分かる。
「明日で掃除最後だけど、頑張ろうね、だって!」
眩しい笑顔に、
かける言葉が見つからなかった。
たった、そんな文なのに、
俺は、虹心の声が聴けるのに、
なんだか、明が羨ましく思えてしまって……。
「そうだな……」
どうして、虹心は俺だけを見ていてくれないのだろう?
いつからか、
俺はとんでもなく欲張りになってしまった。