事件は起こった。
脱衣所を出てすぐのこと。
「ひゃっ!」
最近染め直した茶髪から滴り落ちる雫を拭きながら脱衣場の扉を開けると、
突然、柔らかい何かが悲鳴と共に身体に飛び込んできた。
「ご、ごめん…!瞬…」
「にっ、虹心!?」
あまりにもビックリして、
声が裏返った。
モコモコのパジャマを着て、
濡れた髪が艶っぽい。
「なんでそんな驚いてるの?なんか今日変…」
虹心が上目遣いに、疑うような視線を向けてくる。
お前のせいだよ!
なんて言えるわけもなく…。
「いや、別に…。虹心こそ、すげー焦ってどうしたの?」
虹心は数学の教科書をだき抱えていた。
「瞬に数学教えてもらおうと思って…。早くしないと寝ちゃうかもって」
俺はジジィかよ……。
若干呆れつつ、
濡れた髪を拭った。
「いいよ。どこでやる?」
「ほんと!?じゃあ後で部屋行くね」
虹心はパァッと顔を明るくさせると、
スキップするように階段を駆け登って行った。
「おい、転ぶな ────」
ドンッ
「いだッッ……」
大きい物音と一緒に、
虹心の悲鳴が聞こえる。
ほら…言わんこっちゃない……。
俺はまた髪を拭うと、
階段を上がって虹心を追いかけた。


