「じゃあ、おトイレ行ってくるね。怖いからここで待っててね!!」
虹心は早口でそう言うと、
女子トイレへ駆けって行った。
「………はぁ……」
俺は盛大にため息をつくと、
女子トイレの看板が掲げられた壁にもたれかかった。
明が、目の前で小さく首をかしげている。
ったく…ほんとに明には油断できねぇ……。
「お前さ、虹心のこと……」
そこまで言ったところで、
明が耳が不自由だと言うことに気づく。
そうか…。
俺は仕方なくジャージのポケットからスマホを取り出すと、
明とのLINEトーク画面を開く。
真っ白なトーク画面。
LINEのトークは、
しばらく使っていないと自動で消えてしまうので、
" あの日 "
の痕跡は跡形もなく残っていなかった。
明のLINEを追加したのは、
実に2年前。
高校に入学してすぐのことだった。
だけど、すぐにある事件のせいで明は孤立してしまって、
結局、今に至る。
『お前ら、こんな時間までなにしてたの?』
俺がそう打つと、
すぐに返事が返ってくる。
『虹心が本を借りたいって言ってたから、司書の先生待ってたら、寝ちゃったんだ』
" 寝ちゃったんだ "
こいつはどういうニュアンスでその言葉を使っているのだろうか……。
まぁ、どうせ昼寝って意味だと思うが…。