───── 春。
それは出会いの季節である。
「あれ…芹沢…ない」
教卓の上には、
既に芹沢の名札は置かれていなかった。
もしかして、先生が私を男子だと思った…とか?
でも、下の名前が、
虹に心って書いてにこなのに…。
教室をキョロキョロ見渡していると、
不意に後ろから背中を叩かれた。
ビクッとして振り返ると、
そこには見たことのない男子生徒がいた。
少し長めの艶やかな黒髪。
180cmはあろうかという長身。
「あ、あの……」
私がオドオドしていると、
彼は手を差し出してきた。
その手の中には、
オレンジ色の芹沢の名札。
「あ、ありがとう」
私が彼から名札を受け取った後も、
彼はまだ手を出したままだった。
「へ…?」
なんだろう、そう思っていると、
もうひとつの芹沢の名札に視線を向けていることに気がついた。
もしかして……
「ごっ、ごめんなさい!私間違えちゃって…」
彼に青い方の名札を渡す。
彼は小さく微笑すると、
私の横を通り抜けていった。


