「どうかな?」
背後から声が聞こえて、
俺は緊張した表情のまま虹心を振り返った。
目の前にいたのは、
俺の為じゃない、
他の男のために着飾った、
愛おしい人。
あぁ、可愛いよ。
可愛い…。
「似合ってるよ」
そう呟けば、
虹心は嬉しそうに前髪をいじり始めた。
けれど、
君が待ってるのは、
俺なんかの言葉じゃなくて、
明の、言葉なんだよね。
「楽しんでこいよ」
そう言うと、
虹心は満面の笑みで頷いた。
ほんとに、鈍感だよね。
小さい頃から、ずっと、変わってない。
その時、机の上に置いた俺のスマホが着信を知らせた。
名前なんて確認しなくったって分かる。
あの着信音は成宮だけに設定した音楽。
といっても、アイツが勝手に設定しただけなんだけど……。
ここ最近、成宮は俺を気遣ってか、
やたらと連絡をくれるようになった。
成宮の前であんなに大泣きしたんだ。
そりゃあそうか…。
俺は虹心を部屋に返すと、
通話ボタンをタップした。