「了、元気でな」
黒い車を目の前に、
了君へ瞬が言う。
「うん、瞬もね」
了君が養子になることを決めて1週間後、
ついに、了君が施設を出ていく日がやってきた。
「了君、たまには遊びに来てね?」
「虹心も、遊びに来てね」
了君は、少しぎこちなく笑った。
この1週間、
了君は本当によく笑うようになった。
目が隠れるほど長かった髪も、
今では目にかからないほどの長さに切られていて、
すごく、変化を感じた。
「了にぃ、杏たちのこと、忘れないでね」
杏ちゃんが、
泣きそうに震える声で、
了君に問いかけた。
神崎さんの家は、
隣の県にある。
ここからでは少し遠いので、
頻繁には会うことができないだろう。
「忘れないよ、絶対」
少し、心配だった。
了君がこの先、
ちゃんとやっていけるのか。
でも、
今の了君なら、
きっと、
大丈夫だろう。
元の了君のように、
笑って、やっていけるだろう。