そんな時、事はおきた。


夏休みの全員参加の補習の帰り、
施設の前に1台の黒い車が止まっていた。


あれは、神崎さん夫婦の車だ。


私は瞬と顔を見合わせると、
急いで施設内へと走った。



「だから、嫌だって言ってるだろ!?」


靴を脱いで玄関へ上がった時、
中から、そんな怒鳴り声が聞こえてきた。


この声は、了君の声だ。
けれど、了君がこんな大声を出したのは初めてだった。


「了君、お願い、話だけでも…!」


「僕に家族なんて必要ない!」


縋る神崎さんの声をかき消して、
了君の怒鳴り声が響いた。


リビングの扉が勢いよく開く。

了君は廊下に立ち尽くす私たちに目もくれず、
大雨の降りしきる外へと駆けて行った。