君に声届くまで。



「虹心?」


瞬に呼ばれてハッとする。


いけない…!

ぼーっとするなんて…



私は、梱包していたクッキーから
瞬に視線を向けた。


気がついたら、もう5時をすぎていた。



瞬は台所の壁に寄りかかりながら、
私を見つめている。



「どうしたの?」




「後で柊さんが数学教えてくれるって」




「おー!やったぁ」




瞬が言いながら私の隣にやってくる。



柊さんというのは、
この施設を今年卒業した1つ歳上の男性だった。



この施設には、柊さんの他にも、
中学生の男の子1人と、
小学生の男女が1人ずつ暮らしている。


職員も、園長夫婦とその娘さんの3人で、けして大きいとは言えないけれど、
何不自由なく生活できていた。



「何してんの?」



瞬は不思議そうに私の作業を覗いてくる。



「クッキーだよ。明君にあげようかなって!」



その言葉に、
瞬の眉がピクリと動いた。



「明に?なんで」



明?
瞬って明君と知り合いなのかな…。



「教科書貸してもらったから…。杏ちゃんと悠汰君もおやつに食べたいって言ってたし。瞬も食べるよね?」



「…律儀だな。…あんまり、アイツに深入りすんなよ」



瞬が焼いたクッキーをパクリと口に放った。