海の香りのする、嗅ぎ慣れた湿っぽい風が俺の髪を揺らした。

サンダルの隙間に砂が入りこんだまま、明かりがないせいで暗い海辺を歩く。



昼間あんなに人のいた空間にこうも姿がないのは変な感じがする。

忘れられたすいか柄のビーチボールが小さく潰れて転がっていて、なんだか物悲しい。



今日は珍しく花火をする人もいないらしく、月の光が海に呑みこまれながらもわずかに反射している。

そんな光くらいしかない。



黙々と足を進めて、人の気配に小さくため息を吐き出した。



「ミオ」



呼びかければ、彼女は振り向いてわずかに笑う。



「なっちゃん」



遅いよ、と言いながら、隣に腰を降ろせと促してくる。