何を作っているのだろうとまた覗き込むけど、やはり彼女の姿はない。あるのは作りかけのオムライスくらい。上にかけるはずのケチャップが、何故か散乱してしまっている。

 おかしいな。こんな中途半端に放置して、彼女はどこへ行ってしまったんだ。あと考えられるのは……トイレぐらいか?

 台所からでもよく見えるベランダにはいないようなので、洗濯物は干してはいないらしい。となると、やはりトイレしか考えられなくなるわけだが……。


 ――仮に。


 トイレにも彼女がいなかったら、僕はどうしたらいいんだろう。

 このお世辞にも決して広くないワンルームに、彼女がいられるスペースは他にない。天地がひっくり返ってでもトイレにいなければ、彼女はこのワンルームの中で神隠しにでもあったことになる。

 そんな非科学的なこと、僕は信用できないし、するつもりもない。


「……菜々子(ななこ)?」


 トイレの方を向き、思い切って彼女の名前を呼んでみた。しかし、反応はない。途端に心臓がバクバクと急速に鳴り出し、息が乱れて焦点も合わなくなって身体中から汗が噴き出してきて頭の中で「まーくん、まーくん」と彼女の僕を呼ぶ声がフラッシュバックして僕はゆっくりと彼女の首に手を伸ばして――。





 ……あ。