家に帰ったのは10時半を回った頃になった。

 お父さんとお母さんは相変わらず、なにも言わない。私もなにも言わずに笑顔で無難な会話をしてから自分の部屋に戻った。


 携帯電話を取り出して、茗子の名前を選択する。

 迷いなく通話ボタンを押して、数回の呼び出し音を聞く。
 ……もう、出てくれないかもしれない。


『はい』


 そう思っていたけれど、茗子はすぐに出てくれて、それにほっと胸をなでおろす。


「私。突然、ごめんね。あと……この前は、ごめん」

『……なにそれ、意味分かんない。よそよそしい』


 いつもよりもそっけない口調だけれど、怒っている様子は感じられなかった。

 今までだったらこのまま、適当に話をしてしまっていただろう。
 だけど。

 深く息を吸い込んで、吐き出して、電話をぎゅっと、握りしめた。


「私、大和くんから、昔の話、聞いたの」


 逃げるな。
 もう、耳を塞ぐのはやめるんだ。


『……それを、信じるの? 飯山や私の言うことじゃなくて。私だってその話は知ってるけど、今仲良くしてる飯山が言ってるんだよ?』

「もしもそれが本当でも……私、大和くんを信じたいんだ」

『ほんっと、どうしたの輝? 大和と関わりだしてからおかしくない? なんでそんなにあいつのこと気にするわけ?」


 声を荒げた茗子に、気にしないで言葉を続けた。
 なんでそんなに大和くんが気になるのか。

 同じクラスで、挨拶だけの関係だった。だけど、茗子や飯山くんになにを言われても、私はいつも挨拶はしていた。


 まっすぐに見てくるあの瞳に、映りたかった。
 そして今は、もっと、彼を知りたいと思っている。


「大和くんが、好きなの、私」


 その気持ちを、私は茗子に、ちゃんと伝えなくちゃいけなかった。
 口にすると、涙があふれた。