「鷲尾も、言いたいことくらいあるんだろ。もういい加減言えば? そのために、みんなを集めたのはお前だろ」


 浜岸先輩が、鷲尾先輩の肩に手を添えた。
 隣りにいた来栖先輩も、顔を上げる。


「そういえば、鷲尾は、いつも、自分のことを後回しだったっけな」

「な、にを」

「鷲尾先輩、わたしみんなに、鷲尾先輩の気持ちを聞いて欲しいです。鷲尾先輩が放送室でわたしたちに言ったこと、みんなに、伝えて欲しいです」


 柿本さんが鷲尾先輩のそばに行き、見上げながら告げる。


「僕は」


 涙が、ぽろりとこぼれ落ちる。


「僕はただ……僕の気持ちを、知ってほしいだけなんだ……。辛いとか悲しいとか惨めとか……僕は伝えたい事があるわけじゃないんだ。いじめをなくしたいとか、思ってるわけじゃない」


 人と理解し合えるなんてことは難しい。
 口にだすことが間違いであるか正しいであるかも、わからない。


「ただ、もう、ひとりで耐えて戦うのが嫌だったんだ。ぼくの気持ちを……誰もわかろうとしないことが、嫌だったんだ。ぼくだって……いじめられるのは、辛いんだ……!」


 話し合いたいわけじゃない。
 ただ。


「ただ、その思いを口に、したかっただけなんだ」


 それがなにより難しいと、私たちはみんな、もう知っている。
 勇気や、勢い、悔しさや悲しさ。それらが爆発しないと、なかなか出来ない。

 だけど。


「それで、いいじゃないですか」


 大和くんが優しく微笑んで言った。


「みんなとなら、できますよ、きっと」


 柿本さんは、私を見てから先輩に告げた。微かに笑って見えたのは、私の気のせいかな。


「私、みんなと、もう少し、頑張りたいです」


 そう言うと、小さな声で「そうだな」と鷲尾先輩が返事をしてくれた。