その司書さんに怒っている雰囲気はなかった。
むしろ、心配して言ってくれている感じだった。
学校をさぼって来てしまったことに今更ながらハッとして言いよどんでしまった私と違い、結城くんが上手に言い訳してくれた。
「僕たちはN市の高校に通っています。今日は調べ物をしにきました。
文化人類学の授業の一環で、今の自分に強い影響を与えた子供の頃の想い出の場所と人についてをレポートしないといけないんです。
騒がしくしませんので、少し調べ物をさせて下さい」
文化人類学……?
そんな授業はうちの高校にはないし、私の知らない言葉。
でも、司書さんは「あら、そうなの」と納得してくれた。
そして首を傾げて「子供の頃の思い出ね……」とつぶやいてから、パッと顔を輝かせて私の手を握ってきた。
「あなた、もしかして菜乃花ちゃんじゃない?」
「は、はい、そうですけど……」
「やっぱり! 面影が残ってるわ〜!
大きくなったわね〜。もう10年くらい前だったかしら?
毎日来ていた菜乃花ちゃんが引越してしまった時、寂しかったのよ。
元気だった? 今でも図書館通いしているの?」
そう言われて、私も思い出した。
目の前にいる司書さんは、あの頃もカウンターにいた優しいお姉さんだと。
昔はもう少し若くて細かったし、髪形がロングからショートに変わっていてすぐには分からなかったけど、笑顔が同じ。
あの頃、カウンターから手を振ってくれて、時々声をかけてくれた優しいお姉さんだ。


