「分かるよ。僕も君の妹さんが殺されてしまったこと、信じられないでいる」

「私もです……。一体、人狼はどこからやってきたんでしょうか……」

「……分からない」


 分かるはずがない。僕らが産まれる前から人狼は存在していたんだ。一体いつ、どこから出てきて、今や溢れるほどまでに存在していて、人狼のことなんて……分かるわけもなかったんだ。

 せっかく風子の名前が出なくなったと安心していたのに、しんみりとした空気が流れてしまった。しかし、次の瞬間、そんな空気を打ち消すかのように教室の扉が開かれる。担任の日比野 真子(ひびの まこ)先生が入ってきたんだ。

 背中くらいまである茶色の髪を後ろでひとつにまとめ、すらりとした体型の日比野先生は、猫塚高校の教師の中でもずば抜けて美人だと言われている。

 その容姿とは裏腹に男勝りな性格の人で、頼る生徒も少なくはない。過去に軍人にいたらしいという噂も聞いたけれど、疑う余地のないほど凛としている。

 日比野先生が教卓の傍に立つと、いつものように出席を取りはじめる。出席を取り終わったあと、日比野先生の口からも風子の名前が出るのかと思うと……胸が、痛い。


 ──ああ、今日もまた、何気ない1日が始まるんだ。風子が死んでしまったというのに、いつもと変わらない平和的な1日。

 僕の身の回りで平和じゃないのは、風子が殺されてしまったことを受け入れたくないと嘆く、僕の心だけ……。

 この心だけは、きっといつまでも鎮まることはないだろう。鎮まってしまったその時は、風子の〝死〟に何も思わなくなってしまった瞬間だ。

 だから僕は、心の中で常に荒波をたてつづけるんだ。

 僕が死ぬ、その瞬間(とき)まで……。