今になって友達を作ろうとは思わない。ここまできて、今さらどうやって作ればいいのかが分からないし、「友達になってください」だなんて声をかける勇気もない。

 そのうえ、風子が死んでしまったことにより、その壁は一段と高くなったようにも思える。僕には難しすぎる話なんだ。

 だから、今日も僕は足早に自分の席につき、窓の外の代わり映えない風景を眺めながら、時間が過ぎるのを待つしかないんだ。


「犬飼くん」


 自分の席についてから、どれくらいの時間が経ったのだろう。不意に同じクラスの女子生徒に自分の苗字を呼ばれ、反射的に身体がビクリとはねる。まさか誰かに呼ばれるだなんて思わなくて、驚いてしまった。

 誰がなんの用事で……しかも、それが女子生徒からだなんて。と、不思議に思いながらも僕を呼んだ女子生徒の方を向くと、そこには大上 弥生(おおがみ やよい)さんがいた。

 ゆるやかなウェーブを描いた、腰くらいまで伸ばされた茶色い髪に、パッチリしたブラウン色の瞳。その容姿のおかげか、明るく前向きな性格のおかげか、彼女の周りにはいつも誰かがいる。

 よく笑っていて、その笑顔が似合う大上さんは、普段は見せない悲しそうな表情を浮かべて僕を見ていた。


「……大上さん?」

「あの……なんて言ったら分からないけれど、その……妹さんのこと……」


 彼女には似つかわしくない、消え入りそうなほどに小さな声音。それ以上の言葉が続くことはなかったけれど、彼女は彼女なりに気を遣ってくれているんだと思う。