人狼に襲われる多くの被害者は、〝それ〟が誰かなのか分からないくらい血肉まみれで、グチャグチャに食い殺されると聞いているから……。


「……風子」


 名前を呼ぶ。本当は眠っているだけなんじゃないか。僕の心の中は、もうしつこいくらいに目の前の現実を疑う。名前を呼んだら、今すぐにでも「ドッキリ大成功!」なんて飛び起きるんじゃないか。そんなことを望んでしまう。


「ううっ……」


 残酷な現実を目の当たりにして、洋子さんは両手で顔を覆い、泣き出してしまった。そんな洋子さんの身体を、臣さんは力いっぱいに抱き寄せる。僕がまだ泣けないでいるのは、目の前で横たわる風子の現状を目の当たりにして、遥かに衝撃が大きすぎるから。

 ……けれど、──風子は死んだ。

 それは紛れもなく事実で、変えようのない現実、突き付けられた真実だった。

 僕はただ、目の前で冷たくなってしまっている風子の死に顔を、呆然と見つめることしか出来ない。


「もう!大和ちゃんったら、相変わらず鈍臭いんだから!」


 今朝に放たれた生前の風子の声が、言葉が、表情が……頭の中で何度も浮かび上がり、消えていく。

 いつも兄である僕のことを〝大和ちゃん〟と呼んで慕ってくれていた風子は、もう……この世にはいない。

 悲しみに暮れる僕ら3人は、風子を殺して尚、未だ逃走中だという人狼に対し、言いようのない怒りや憎しみを抱く他なかった……。