会社が保有する保養所は、社員が申し込みをすれば誰でも使える施設だった。

前に1度来たことがある。

結局、私は、仁志さんが言ってた通り、部屋の中で朝まで過ごした。
部屋の外で声がしたので、部屋から出ることにした。


「千鶴ちゃん、おはよう。
ちょっと手伝ってくれるかな」

西川さんが、エプロンして
忙しそうにお盆で何か運んでる。

西川さんに給仕してもらいたい気持ちを、ぐっとこらえる。

私は、キッチンの中に入った。

中には知らない男性と陽子さんがいた。

「おはようございます」

「あっ、千鶴ちゃんそれ、運んで」

「はい…?」
何をどう運べばいいのかわからない。


「皿に盛ってあるの!もう、ほら、専務が盛り付けてる皿よ!!」


「はああ?」
私は、固まって動けなくなった。

「だから、専務の前!!って、固まったのは、それのせいか?」

「ひぃーっ!!」

「初めまして、専務です」トレーナーの上下に無精髭。何かの間違いだと思う。


社員数人っていう会社なら、まだしも、うちの会社の役員と出くわす何てこと考えたことなかった。

「あの…どうしてここに」

「僕?」
確か亡くなった前社長の息子で、
30代後半。現社長の弟だ。
前社長も、会社の行く末を案じながら亡くなったとか。
いかにも、将来を案じたくなるような感じ。

っていうか、横領事件はどうなったの?

「千鶴ちゃん、あっちに行こうか」
陽子さんがいう。

「はい」
私は、専務と西川夫妻と一緒にテーブルについた。