「奏太……!」

より強く抱きしめる。

モト先輩が亡くなったのは、奏太のせいなんかじゃない。

奏太はきっと、自分にできることをしたはずだ。

「モトが死ぬまで、俺が整備士になりたかったのは、車やバイクを自由にいじれるからだった。バカだよな。あの時の俺には整備士になる資格なんてなかった。でも、それからは……」

私の車の修理をお願いした時、ちゃんとメンテナンスをしろと強く言っていた彼を思い出す。

その時の奏太の頭にはモト先輩の死があったのだと思うと、たまらない。

「うん。わかってる。私の安全のために、たくさん点検して修理してくれたもん」

私だけじゃない。

きっと、奏太のところに車を持ってくる全ての人の安全を願って働いている。

奏太は悲しみを乗り越えて成長したんだ。

モト先輩が亡くなったのは悲しいけど、それで奏太が自分を見失ったりヤケになったりしなくて、本当によかった……。

ゆっくりお互いの体を離す。

冷たい風が吹いて、触れ合って温かかった部分が冷える。

私が彼のパーカーを羽織っているし、奏太は半袖だ。

「車に戻ろう。奏太、風邪引いちゃう」

「うん」

奏太は泣いてはいなかった。

でも、いつもより目が潤んでいる。

きっと私に涙など見せまいと、必死に我慢したのだろう。