「え……?」
いいともダメとも言う前に、奏太の腕は私に巻き付いていた。
途端に鼓動が強くなって、触れ合った部分からそれが彼に伝わっているのがわかる。
私の左肩に奏太の頭が乗っている。
彼も泣いているような気がして、私もそっと抱き返す。
こうして抱きしめてみると、やっぱり彼の体は10年前よりずっと逞しくなっているのだとわかる。
しかしその逞しくなった体が、今、微かに震えている。
「モトが死んだ夜、俺も一緒にバイクで走ってたんだ。あいつが前、俺は後ろを走ってた」
奏太が左の耳元で、囁くように語り始める。
「カーブを曲がりきれなかったことによる衝突事故。原因は色々あるけど、たぶん、一番は整備不良。事故のしばらく前から、バイクのブレーキがおかしいって、何度か言ってた」
声も少し震えている。
私は彼を抱く力を強めた。
「仮卒の時にバイトして買った中古の古いバイクだったけど、お互い仕事のために車も買ったりして金がなかったから、メンテナンスなんてほとんどしてなかった。メットも真面目にかぶるのはダサいと思ってて、ちゃんとはかぶってなかった」
奏太の腕の力も、キュッと強くなる。
「あの時、ブレーキがおかしいなら走るのは直してからにしようと提案していれば。ヘルメットをきちんとかぶっていれば。もっというと、俺があいつの誘いに乗っていなければ……」