「そうだ、及川だ。覚えられないんだよなー、結婚後の苗字って。俺の中ではずっと野上だからさ」

「わかるー。私も覚えられなくて忘れちゃうから、結婚した友達のアドレスは旧姓の後にカッコ書きで新しい苗字入れるようにしてる」

「おお、その手があったか! 俺もそうしよう」

そんな話題で笑い合っていると、チカチカッと不自然に車内が照らされた。

不思議に思って後方を見ると、後続車がこちらをハイビームで照らしている。

直射するヘッドライトが眩しくて、すぐに前を向き直した。

この車、なんだかすごく近くにいるような気がする。

なんで? 超危なくない?

うぉんうぉんエンジン音も聞こえてきた。

何が起こってるの?

「何だよ、俺はゆっくり運転したいんだよ」

奏太は舌打ちをして、慣れた手つきでバックミラーの角度を変え、ハザードを焚く。

少しスピードを出し車間距離を取って、程よいところで停車。

後続車は大袈裟なエンジン音を鳴らし、猛スピードで私たちを追い抜いていった。

急に静かになって、チッカチッカとハザードの音が聞こえるようになった。

「え? え? 今の車、何?」

四日前と似たドキドキがする。

「煽られてたんだよ。こういう車に乗ってるとよくやられる。ごめん」

うそ。あれって、煽られてたの?

車に乗るようになって、たまに煽られることはあった。

でも、あんなに危険で攻撃性のある煽り方をされたのは初めてだ。

「なんで謝るの。奏太は悪くないじゃん」

「よくやられるってわかってて、この車で迎えに来てた俺も悪いよ」