くるまのなかで


「……自分だって、男前に10年も秘密を守り続けてたじゃん」

私のために、悪者にまでなって。

「うん、まあね」

5月にこの車が故障せず彼と再会できなかったら、私は真実を一生知らないままだった。

受け入れるのは辛かったし今でも思い出せば苦しくなるけれど、知ることができてよかったと思う。

「これ以上隠し事、ないでしょうね?」

疑いの眼差しを向けると、奏太はニヤリと不敵な笑みを浮かべた。

「もうないよ」

「なんか嘘っぽい」

「梨乃にまだ言ってないのは、俺が卒業したら宇津木自動車を継ぐことくらいだし」

「つっ……継ぐ?」

継ぐって、奏太が工場の経営者になるってこと?

それって“くらいだし”って言えるほど軽いことじゃなくない?

勤めることしか考えたことがない私には、ものすごいことのように思える。

「後継者がいないから俺がやれってことになって。いつか独立したいと思ってたから、ちょうどいいし」

独立、考えてたんだ。

そしてそのチャンスが、あっさり巡ってきた。

「なんか奏太って、地味にスゴいよね……」

運とか信頼とか、いわゆる“持ってる人”ってこういう人のことをいうのだと思う。

昔も今も、私は彼の不思議な魅力の虜である。

「そんなに隠し事が嫌なら、もうひとつ先に言っとこうかな」

「まだあるの?」

やれやれ、困った恋人だ。

呆れながら耳を傾けると、思いがけない言葉が。

「卒業して会社を継いだら、プロポーズするつもりだから。梨乃もそのつもりでいてね」

「ぷっ……?」

「ていうかさっきから信号青だよ」

そういうのはその時まで隠しといてよ!

うまくそうツッコめなくて、代わりにゆっくりアクセルを踏む。

私はこれからその日まで、ずっとドキドキしながら待つ羽目になりそうだ。





fin.