「コバリノ。あたし、ブルーメの仕事、やるよ」
由美先輩が、吹っ切れたような顔で言い放つ。
「本当ですか?」
彼女はカズくんの背を撫でながら頷いた。
大人の難しい話がつまらないからか、彼はママの腕の中でウトウトしている。
「モトが奏太とコバリノを巻き込んでまでくれた仕事なら、あたしに向いてないわけがないもんね」
「はい。もちろんです」
年を重ねると、思い出と共に傷も増えていく。
クリアだった青春時代のキラキラした思い出が美しいから、傷だらけで混沌とした現在を憂いてしまいがちだ。
だけど憂いたところで人生はシンプルになどならない。
思い出があるからこそ、私たちはこれからの人生を生き抜くことができるのだと思う。
由美先輩はきっと大丈夫。
この町には思い出を分かち合い、お互いを助け合える仲間だっているのだから。
「そうと決まれば由美先輩。勉強を始めましょう」
「え? 勉強?」
「採用には適性検査があります。この検査を通過しないと、雇うことができないんです」
「えっ、テストあるの?」
「はい。この仕事、クライアントの意向で基準点がちょっと高いんですよ。点数さえ取ってくれれば、あとは私が何とかできるので。はい、これ教材です」
私は封筒から、印刷してきた学習用教材を取り出し、テーブルに置いた。
それを見た由美先輩は、在学時の期末テスト前と同じ顔をしている。
「ああ……割合の計算とかあるじゃん。自信ない」
「安心してください。これからみっちり教えますから」
そんな私たちのやり取りを見て、私の隣に座っていた奏太が「この光景、懐かしい」とクスクス笑っていた。



