「そんな運命、全然嬉しくないし」
「そう言わずに。この仕事、モト先輩からのプレゼントだと思って前向きに検討してくれませんか?」
由美先輩がテーブルの資料を手に取った。
彼女の表情からだんだん怒気が抜けてゆく。
「モト……」
「ママ?」
突然背後から子供の声がして、私たちは弾かれたようにそちらを向いた。
キャラクター柄のパジャマを身に纏っている可愛らしい少年が、眠そうに、そして不安げに私たちの様子をうかがっている。
「カズ、起きたの? トイレ?」
由美先輩は赤いままの目と鼻声を隠すように、笑顔で母親らしい声を出した。
しかし彼にも母親の状況がわかったのだろう。
すぐに母親に駆け寄り、体当たりする勢いで抱きついた。
「ママ、泣かないで」
そして彼にとっては知らないオバサンである私を悪者だと認識したのか、キッとこちらを睨み勇敢に戦う意思を見せる。
「初めまして、和博くん」
私はできるだけ優しい笑顔を作ったが、カズくんは眉をつり上げたまま両手を大きく開いて由美先輩をかばう。
「ママをいじめるな! おんなだからって、ようしゃしないぞ!」
微笑ましい勇者を、母親が後ろから抱きしめる。
彼女の慈愛に満ちた表情に、私は目を見張った。
私たちの前では姉御肌で、モト先輩の前では恋する乙女だった由美先輩。
息子には、こんな顔をするのか……。
亡くなった母を思い出して、心をくすぐられるような感覚がした。



