「そんなに心配なら、今夜は俺の部屋に泊まっていく?」
「泊まらないよ。由美先輩とカズくんもいるんでしょ?」
まだ小学校にも上がらない少年にとって“ある朝起きたら知らないオバサンがいた”なんて状況は刺激的すぎると思うし、私は生活リズムが少しズレているから迷惑をかけてしまいかねない。
そういう意味で言ったのだが、奏太は急に怪しい笑みを浮かべた。
「二人に気を使うようなこと、したくなるから遠慮してるの?」
「なっ……ちがっ……!」
ていうか、二人に気を使うようなことって何よ。
つい想像してしまって、途端に顔が熱くなる。
「はは、別に変なこと言ってないのに、何を想像したの?」
わかっているくせに、この野郎。
悔しくなった私は、彼にもう一度口づける振りをして、軽く唇を噛んでやった。
奏太は一瞬びくりと反応して「ん」と濁った声を漏らす。
「……痛い。でもこんな怒られ方なら悪くない」
「もう。バカじゃん」
「バカで結構」
まったく、意地悪でやったつもりなのに、喜んじゃうなんて。
イイ年して、うまくいった途端バカップルか、私たちは。
もっと強く噛んでおけばよかった。
「こんなことしてる場合じゃないよ。今日は奏太じゃなくて由美先輩に会いにきたのに」
「はいはい。そうでしたー」
奏太が肩をすくめて歩き出す。
私はようやく彼と由美先輩の住む家へと足を踏み入れた。



