もはや日課となっているチーフとの不毛なやりとりを終え、お互いに自分のデスクに着席する。
まだ電源を入れていないパソコンのスクリーンに、ぼんやり自分の顔が映る。
夏に向けて首元をスッキリさせたショートカットは、先週の休みに美容室に行ったばかり。
顔は化粧を施して間もないため、まだ崩れていないし唇も潤っている。
奏太と再会したのがコンディションの良好な時間帯でよかった。
まっすぐ下ろすと目より少し下にくる程度に長い前髪を軽く斜めに整えて、電源ボタンを押す。
さあ、少し遅れたけど、今日も働こう。
奏太に『頑張って』と言ってもらえたから、いつもよりずっと頑張れる。
「梨乃ちゃん、ほんとチーフと仲良しだよねー」
向かいの席から奈津さんが楽しそうに話しかけてきた。
「やめてくださいよ」
私には仲良くしているつもりなどない。
「二人って、兄妹みたいだよね」
一人っ子の私は、兄弟や姉妹という存在に憧れてはいるけれど。
「あんなお兄ちゃん、ほしくないです」
本当に、心の底から、絶対にあんな兄は嫌だ。
「俺もこんな妹いらねーよ」
チーフの席からこんな言葉が飛んできて、このフロアのセンター全体が微かな笑いに包まれた。
ディスプレイにログイン画面が表示される。
社員番号とパスワードを入力し、パソコンが完全に立ち上がるのを待つ。
待っている時間でさえ惜しいほど、やるべきことはたくさんあるのだ。
特に今日は遅れて出社してしまったし、あまり長い残業もしたくない。
私は彼の方を向くことなく、自分の仕事を始めることにした。



