くるまのなかで


「ええ、おかげ様で無事に辿り着きました。ご迷惑をおかけしました」

嫌いだなんて感情はおくびにも出さずに恭しく告げると、彼はいつものイタズラっぽいふざけた表情をした。

「迷惑だなんてかけられたことないですよぉ。ちょーっとそこまで歩いてサポートしたくらいですから。小林さんのフォローをするのがボクのお仕事ですからぁ」

わざと裏声を使い両手を振って嫌味ったらしくおどける、ルックスだけは抜群にいい38歳。

私の所属するさぽーとこーるを含む3つのコールセンターを統括しているチーフSVである。

シャープなフェイスラインにキリッとした眉目、厚さはないが濃い色の唇。

スラッとした体格を自慢するように細身のスーツを完璧に着こなしている。

無駄に長い前髪を左に流している髪型は、一体誰を意識しているのだろう。

明らかにカッコつけているそのヘアスタイルでさえ嫌味なく似合っているのが、余計に腹立たしい。

「お手を煩わせてしまって申し訳ありませんでした」

「ですからぁ、ボクはお仕事しただけでぇ」

……いつまでそのキャラを続けるつもりなのだろうか。

奈津さんと受電待ちのコミュニケーターがそれを見てクスクス笑っている。

「チーフ、私にどうツッコんでほしいんですか」

「何だよー、相変わらずノリが悪いな小林は」

「すみませんね、こういう性格なもので」

「岡山は可愛らしく“やっだーもうチーフってばー”とか言って笑ってくれるのに」

軽く握った両手を顎に乗せて身体を傾ける動作は、奈津さんのモノマネのつもりらしい。

「私は可愛らしくないのでできません」

顔がいいからって、世の中の女がみんなあんたに媚びると思うなよ。

私は彼のような自覚イケメンは嫌いだ。

奏太のように、ナチュラルにカッコいいのがいい。

「ったく、だから男ができねーんだ」

「余計なお世話です」

そういう無駄な一言が嫌なのだ。