私は地元の国立大学を志望していた。

しかし、合格するには学力が足りていなかった。

だから推薦入試を受けられないかと、担任の野中先生に相談していた。

東峰学園は国立大合格者を出したかったこともあって、私に推薦入試を受けさせかった。

しかし、不良グループと密な付き合いのある私を推薦するわけにはいかないと、なかなか決定を下せなかったという。

奏太が卒業した年の6月上旬。

彼は専門学校受験のための用事で母校を訪れた。

その際、彼は私の担任である野中先生にこう告げられたのだ。

「お前と付き合っているせいで、小林が行きたがっている大学に推薦状が出せない。彼女の将来のために、関係を絶つことを考えてはくれないだろうか」

奏太は悩んだ末に、別れを選択した。

そのおかげで私は推薦状を獲得。

入試を受け合格し、今に至る。

奏太が別れたい理由を告げなかったのは、私がそうと知れば絶対に別れを受け入れないとわかっていたからだろう。

苦渋の決断に参っていた彼を、親友であるモト先輩が放っておくはずがない。

彼が奏太をツーリングに誘ったのは、私のために己の気持ちを犠牲にした彼を励ますためだった。

つまり。

私が欲張って推薦入試なんて受けようとしなければ、私と奏太は別れることはなかった。

私たちが別れていなければ、きっとモト先輩は今でも生きていた。

無茶苦茶だと思っていた彼女の理論の根拠が見えて、これまでの10年間の意味や重みがみるみる変わっていく。

私がモト先輩を殺した……とまではいかないが、少なくとも、亡くなるきっかけを作ったのは、他でもないこの私だった。



ヴーーーーー

テーブルの上に置いた携帯が震える音で、我に返った。

由美先輩がいない。

私が放心している間に帰ったらしい。

ディスプレイには『着信 徳井奏太』と表示されている。

熱々でよい香りを放っていた紅茶と、自分の指先がいやに冷たい。

私はなかなか携帯に手を伸ばせなかった。