くるまのなかで



数年前に潰れた家電量販店をリフォームしただけの建物は駐車スペースが充実しているが、セキュリティのため、登録のないこの車は許可なく敷地内に入ることができない。

私はそこでドアを開け、低い位置にあるシートから立ち上がるようにして車を降りる。

「ありがとう。私の車、お願いね」

「了解。仕事頑張って」

「うん。奏太もね」

「梨乃」

「ん?」

「連絡、待ってるから」

私は今一度、彼の左手の薬指を確認した。

指輪はない。

それによる日焼けの跡もない。

自分の性格上、好きな人にガツガツ食らいついて行くことはできないけれど、これは少しくらい期待してもいいのだろうか。

頑張れば、また特別な関係になれるだろうか。

「うん。じゃあ、また夜に」

助手席のドアを閉めると、シルビアは低い音を立て、似合わぬ法定速度で去って行った。

10年振りの再会から、まだ約30分。

魅力的に成長した彼の変わらぬ優しさに、腰の重かった私の恋心がフルに活動している。

頭のてっぺんから足の指の先まで、こんなに激しく恋愛ホルモンが巡るのを感じたのは、それこそもう、高校生ぶりのことだった。