「仕事が終わったら何時でも、遠慮なく電話して。俺の番号はあの頃と変わってないけど、まだ携帯には残ってる?」
その電話番号なら、携帯のメモリに残っていなくたって、今でも容易に諳んじられる。
なぜなら私たちの携帯電話の番号は一桁違い。
11桁中10桁は同じ番号だ。
付き合っていた頃、一緒に携帯電話を契約しに行った時にそうしてもらった。
「うん、残ってるよ。私も、番号はあの頃から変えてない」
奏太が今でもあの番号を使ってくれているということは、この10年の間、電話番号を書いたり言ったりする度に私のことを思い出してくれていたような気がして、期待が膨らむ。
自意識過剰かもしれないけど、実際に私はそうだった。
衣類をクリーニングに出すとき、宅配便の送り状を書くとき、コスメカウンターでポイントカードの登録をするとき。
携帯電話の番号は、日常の様々なシーンで利用する機会がある。
私はその番号を書く度に、奏太の持つ一桁違いの番号へ思いを馳せていた。
振られてしまった側の私は未練がましく頻繁に彼を思い出していたけれど、奏太も、私ほどでなくても、番号を通して私を思い出す機会はあったはずだ。
ああ、今日はもう会社になど行かず、ずっとこの車という密室で話をしていたい。
会社になんか、到着しなければいいのに。
しかし当然この願いは叶えられず、奏太の車は支障なく会社の前に到着。
門の前で停まった。



