「仕事は何時まで?」
「定時は夜9時。でもいつも10時くらいにはなるかな」
忙しい時期は、午前様になることもある。
そんな時間に寄り道できる場所なんてコンビニやファミレスくらいだし、自宅と会社の往復だけの味気ない毎日だ。
お察しの通り、しばらく彼氏もいない。
「なら、ちょうどよかった」
奏太の声のトーンが上がる。
「え?」
ちょうどいいって、何が?
「俺、帰りも迎えに行く」
「ええっ? そんな、悪いよ!」
正直すごく助かるけれど、会社は辺鄙な場所にあるし、時間も遅い。
「俺もちょうど10時頃にこの道を使うから、ついでに寄る。梨乃の車の修理が終わるまで毎日迎えに行く」
「毎日!?」
そんなに甘えてしまっていいのだろうか。
自分より他人を優先する傾向のある奏太のことだ。
ついでだというのが真実か疑わしい。
オロオロしている私をチラリと見て、奏太はクスッと笑いを漏らした。
「久しぶりに会えた元彼女と、もっと話したいという理由じゃダメ?」
彼の口から出た“彼女”という言葉に、胸が疼き熱を持つ。
強くなった鼓動がウィンカーの音に共鳴しているような感覚がして、この車が私の気持ちに反応しているような錯覚に陥った。
「もちろん、梨乃が迷惑なら遠慮するけど……」
「迷惑なんて、まさか! 私だって久々に会えて嬉しいし、もっと話したい」
「よかった。じゃあ、決まりだな」
再びウィンカーの音が鳴る。
会社はもう目の前である。
まったく、今日はスゴい日だ。
絶体絶命のピンチから奇跡的な生還。
目の前にあった自動車の整備工場。
忘れられなかった元恋人との再会。
そして、約束。
ドラマチックにも程がある。
願っていたこと以上のことが起こって、数十分前の恐怖など、とうに吹き飛んでしまった。



