くるまのなかで


「10年振りだな」

先に言葉を発したのは奏太の方だった。

「うん、そうだね。奏太、整備士になれたんだ。嬉しい」

そのために頑張っていたのを知っているし、夢が叶ってよかったと心から思う。

「おかげ様で、なんとかね。あの頃は梨乃に心配ばっかりかけてたよな」

「そうだね。奏太、いつも自分より他人を大事にするから」

心配だったけど、そういうところが好きだった。

あの頃の気持ちがどんどん蘇っていく。

「あれから、なんとか金貯めて県外の専門学校に入って、卒業して。2年くらいあっちのディーラーで修行して。こっちに戻ってきた時に宇津木社長に拾ってもらった」

「そうなんだ」

10年の間にいろいろあったんだな。

宇津木社長はとてもいい人そうだった。

奏太に素敵な出会いがあってよかった。

「梨乃は何の仕事してるの?」

「SV(エスブイ)だよ」

「えすぶい?」

「うん。スーパーバイザーの略」

「スーパーバイザー? なんかカッコいいね」

「あはは、響きだけはね」

最近でこそテレビなどでも耳にすることが増えてきたが、まだあまり耳馴染みのある職業ではないかもしれない。

「どんな仕事?」

「簡単に言えば、人をまとめる仕事だよ」

「やっぱカッコいいじゃん。元生徒会長の梨乃に合ってるね」

「そうかな」

私はアウトソーシングや人材派遣をメインビジネスとしている会社に、SVとして勤めている。

事業所は全国各地にあり、少し前までは他県に勤めていた。

しかし母が病に倒れ、看護のためにこっちの事業所に異動させてもらったのが半年前。

病気が発覚した頃には既に末期症状だった母は、残念ながら3ヶ月前に亡くなったが、私はそれ以降もこの町で働いている。