「奏太は優しいね。そういうとこ、大好き」

「梨乃」

奏太の腕と体がこちらに迫って来たのを感じたけれど、私は体を引いて手を突き出し、阻止した。

常に彼の抱擁を求めている私の体と、今の状況で彼を受け入れたくない私の意思が反発し合って、いろんなところがチクチク痛む。

「でも、その優しさのせいで、私は奏太と幸せになれない」

ハッキリそう告げると、奏太は悔しそうな顔をしてピタリと止まった。

「私は幸せになりたいの」

ねえ、神様、いるんでしょう?

もし、今後一生幸せになれないのだとしたら、私があの日、死なずに助かった意味はあるのですか。

奏太と再会した意味は、あるのですか。

私が生きることになったのは、苦しむためなのですか。

私は、苦しまねばならないほどの罪を、何か犯したのでしょうか。

「梨乃。俺が好きなのは梨乃だけだよ。それだけは、覚えといて」

奏太はそう言い残して、私の車を降りていった。