くるまのなかで


事務所の前に停まっていた白いシルビアは、奏太の車だった。

「お、お邪魔します」

好意に甘えることにした私は、おそるおそる助手席の扉を開けた。

セダンやワゴンに比べると格段に狭い車内には、申し訳程度の後部座席もある。

「どうぞ。あんまり乗り心地は良くないけどね」

「いえいえ、めっそうもない」

車体が低く、座るというよりは落ちるという感じでシートに着席。

車内は男の人の車っぽい、甘くない芳香剤のにおいがする。

視線がものすごく低い。

奏太が慣れたように運転席に座りながらエンジンをかける。

うぉん、とスポーツカーらしい低い音が響いた。

ドアを閉め、シートベルトを装着。

外部の音が遮られた空間にややうるさくBGMが流れはじめ、彼は慌てたようにピッピとボリュームを下げる。

リアブレーキを解除してクッとクラッチを踏む音が聞こえると、シフトレバーがローに入る。

MT車を見たのは教習以来かもしれない。

「じゃあ、出発。ナビよろしく」

「うん」

シルビアは唸るようなエンジン音を響かせて、ゆっくり走り出した。

視界がいつもと違い過ぎて、毎日利用している県道65号線が全く違う道路に感じられる。

二人だけの密室に、私はまたドキドキし始めた。