くるまのなかで


そんなにかかるの?

何日も車がないのはちょっと困るなぁ……。

私が勤めている会社は、公共交通機関を利用して通うのが難しい場所にある。

列車なんて通っていないし、バスでも最寄りの停留所から2キロ歩かねばならない。

そもそも終バスが6時台に出てしまうので、定時で21時終業の私にはバス通勤自体が不可能。

そうなるともうタクシーという選択肢しか残っていない。

今日一日くらいなら何ともないが、これから4〜5日もタクシー通勤になると、愛車の修理費用も含め、痛い出費である。

故障してしまったのだから仕方がない。

命があっただけマシなのだ。

「わかった。じゃあ私、会社とタクシー会社に電話してくるね」

「ああ、それなら……」

「奏太、送ってあげなさい」

背後から聞こえた声に振り向く。

少し汚れた紺色のつなぎを着た初老の男性が、こちらに歩いてきている。

172センチの奏太より少し小柄で、白髪混じりのグレーヘア。

「社長」

奏太が彼をそう呼んだ。

私が軽くお辞儀をすると、社長と呼ばれた男性はニコニコ笑顔で私に名刺をくれた。

厚みのあるゴツゴツした手に、まだ若い奏太との経験値の差を感じる。

名刺には『宇津木武則(うつぎたけのり)』と書かれている。

「ここだとバスもめったに出ないし、タクシーを使うのはもったいない」

「そうですね、俺もそのつもりでした」