くるまのなかで




奏太は故障した私の愛車を、ガレージジャッキという車輪と棒が付いた道具を使い、道路から宇津木自動車の敷地内へ運び込んだ。

私はこの時、自動車を人力で動かせることを初めて知った。

5月の日射しを受け、少し汚れたビリジアングリーンのつなぎがとても鮮やか。

慣れた仕草で壊れた車を扱う奏太があまりに頼もしくて、不安に震えていた私はますます心を奪われていく。

大人になった彼が、この時期の若葉以上にキラキラ輝いて見える。

漆黒の髪はミディアムのソフトモヒカン。

つるんとした額に浮かぶ眉は、10年前は細くきつい角度に整えられていたが、今は自然で緩やかなカーブを描いている。

その下に垂れ気味で丸い、優しい目。

美しく光を反射する鼻梁。

下の方が少し厚いつやつやの唇。

その唇が、色っぽく動く。

「タイヤがシャフトから外れてる」

奏太はそう言って、破損して外れてしまったらしい拳サイズの部品を見せてくれた。

しかし私にはそれが何であるかわからない。

「え?」

「命があってよかったね」

「やっぱり、そんなに危険な故障なの?」

奏太はこくりと頷いた。

「国道とか高速を走ってたら、大変なことになってただろうな」

捲られた袖から覗く逞しい腕。

左手の薬指に、指輪はない。

「直るの?」

買ってまだ半年なのに、買い替えなきゃいけなくなったらどうしよう。

ローンだってまだ残っている。

「うん、これなら直せる」

「よかった」

「でもこれから部品を取り寄せることになるし、4〜5日はかかる」