私たちはしばらくクスクス笑いながら、また何度か軽いキスをした。

それからしばらく幸せな気持ちで夜景を眺め、明日の仕事のため長居せずに帰路につく。

大きな傷として心に刻まれていたこの景色は、今夜、その美しさに見合う素晴らしい思い出として更新された。

名残惜しいけれど、この景色を見たくなったら、また奏太と来ればいい。

そう思うと、なんか、すごい。

寂しいときは、会いたいと言っていい。

悲しいときは、抱きしめてもらえばいい。

苦しいときは、遠慮なく胸を借りていい。

私たちは再び、そんな関係になったのだ。

山を下りるとき、奏太は来た道ではなく、反対側の麓へと下りる道を使った。

来た道の途中には何棟ものラブホテルがあったが、間違って入ったりしないよう、避けたのだという。

私の住むアパートの前に到着したのは、午前2時前。

「じゃあ、またね」

その“また”が約束されている安心感に幸せを覚える。

「うん。おやすみ」

「おやすみ」

当たり前のように抱き合って、キスをして、車を下りる。

奏太のシルビアは、今日もうるさいなりにできるだけ静かな音で去っていった。